10.日本人特有のドブネズミファッション

 総理を決める平成元年八月の衆参両院の投票模様を、テレビで見たときのこと。
 無言でゾロゾロと列をなし、中央の投票箱に向かい、階段を歩いて行く。衆議院で海部さん、参議院では土井さんが指名され、海部俊樹新総理が誕生したのだが、そう決まるとはわかっていても、そのまま見続けたのは、われわれを代表する議員たちの、同一ドブネズミファッションにあきれたからである。
 何人かの女性議員を除き、みんな一様に紺、ねずみ系統の背広に白いYシャツ。そして、これまた紺系統のネクタイ。それに、だれもが黒い頭髪で白髪とハゲが時に交じる。
 与党も野党も、これが多様な意見をそれぞれ代表し、口角泡を飛ばし議論する人たちか、と思うほどみんな同じである。
 茶系統の服装は両院を通じ男性はゼロ。これは金髪や茶色、あま色の髪などが存在しない、日本人の宿命的な服装感覚であろう。
 ヨーロッパで日本のオーケストラが演奏すると、一様に黒のえんび服と黒い髪が、指揮棒につれて、一様に動くサマは、黒い稲穂が強風に揺れているようで、いろとりどりの頭髪、服装の観客と比べ真に異様な対照であった。
 百名ほどもの演奏家が一つの音楽をやっているのだから、えんび服だけが黒で、髪の色がばらばらな欧米オーケストラより統一されていて良いなと感じもしたが、同時に、命令一下皆同じ軍服で、わき目もふらず敵陣に突っ込んでいった旧日本軍をも思い出した。
 国会議員だけではない。学生時代のジーンズ、ショートパンツ、開襟シャツなどから、サラリーマンになり組織に入り、一目を気にしなければならなくなった途端に、皆一様に、紺、ねずみ色の背広に黒いアタッシュケースという、判で押したようなスタイルになってしまう。
 組織の中に入った日本人がドブネズミスタイルでなくなるのは、終戦により、日本が国際化の道を歩み出して、四十五年たった今でもまだまだ無理なようだ。