100.ああ、ボジョレー・ヌーボー

 驚いたなもう!あのポジョレー・ヌーボー・フィーバーには!わたしゃ長いことイタリアやドイツに住んだけど、ポジョレー・ヌーボー解禁だなんて騒ぐのを聞いたことないね。
 そりゃ自分の国のうまいワインを誇っているんだから、よその国のワインに群がることはしないわね。ってことはわが国にワインの伝統がないから、特別列車が出たりするんですかね。
 ヌーボーって場所の名前?って聞いていた若い子がいたけど、ヌーボー、ってのは、新しい、っていうフランス語だということぐらい知って飲んで欲しいね。ワインは古いほどうまいんでっせ。鰹やビールとは違うんだ。しかも、あとひと月ほど待てば、船便が着いて半値になるんですま。
 日本のように水が良くないヨーロッパじゃ、ミネラル水なんていう食用水を飲む習慣があってね。水にもゼニを払う。安ワインは水のかわり。しよっちゅう飲むものだから安くなければならんし、味も気になる。
 新ワインの味見を一刻も早く、というのは人情。だから毎年十一月第三木曜日解禁としたわけだけど、それを、フランスとの時差が八時間だから世界で一番早く飲めるって喜ぶのは、女房を質に入れても初鰹を食おうという新し物好きで見えっ張り人種の特徴ですな。
 あたしのとこへも、解禁日にポジョレー・ヌーボーを飲もうって案内が、飲み屋から来てたけど、その特徴を利用して商売をしてますな。そして、そうと知りながら乗せられてますね。
 何しろフィーバーが好きで、われもわれもと群がるんだから。でももしこれが、横文字でなくてアジア産の漢字ワインかなんかだったら、こんなにフィーバーしますかね!
 とはい、え、ブドウが良かったから、今年のは今世紀に何度という当たり年らしいですな。となると飲んでみたくなる。
 半値になるころ合いをみて、あたしも行きつけの飲み屋にいきますかな。