13.地名はその国の呼び名で

「チョモランマってエベレストのことじゃないか。一体何語なんだ」
 ラジオで、番組司会の落語家がアシスタントの女の子に聞いていた。しばらく番組が進行したのち、ディレクターが調べたのであろう、「ありゃチベット語だってさ。おれたちには関係ないや」。「まあなんてこと言うの」。アシスタントにたしなめられた。
 あるテレビ局のカメラが、史上初めて世界最高峰の頂上から生中継した直後のことである。
 調べてみた。チョモランマはチベットとネパールにまたがっている。チベットは一九五一年に中国を宗主国とし、自治権を持つことに決まった。一九五二年より中国では「珠穆朗瑪」と書く。ネパール語ではサガルマタ。
 エベレストはインドとネパールが英国統治下であった一九五二年、インド測量局が観測の結果、世界最高峰であることを確認、初代局長、英人ジョージ・エベレストの名がつけられたのである。チョモランマには中国、英国、チベット、ネパール、インドという国々の歴史がからんでいる。
 ドイツのルフトハンザ機上で、日本人スチュワーデスに僕の住んでいたケルンへのフランクフルト乗り継ぎ便を調べてもらったことがある。チョモランマもチベット古来の正確な発音とは多分ちょっと異なるごとく、ケルンというドイツ語も日本語にない母音があり、正確にはケルンという日本語読みの発音ではない。
「ケルンという町はドイツには無い」
と彼女は言う。あきれて再び調べてもらったら
「ああコロンのことですか」
と時刻表を見てやっとうなずいた。
 大昔、ローマ帝国の北辺の領国だったころ、ケルンは「コロン」であった。オーデコロンのコロンである。
 地名はその国の呼び名でなるべく正確に言うべきだと思う。琉球は沖縄に、樺太はサハリンになってしまった。あのスチュワーデスは論外としても、かの落語家君は、国際感覚習得を完全放棄してますな。