2.物ではなく心を広く世界に

 今でもそうだが、日本たたきが激しかった。
 貿易黒字が多すぎる、もっと製品を買え、日本人は働きすぎだ。そして何と米国の下院が、わが国の防衛費をGNPの三%にまですることを議決。昭和六十二年六月のことである。理不尽な言いがかりだった。
 日本製品は安くて質が良いから貿易は黒字になり、外国製品より国産品を買うのだ。関税や保護主義が悪いというなら、わが国と取引せねばよい。うんと働くのは美点で、自分たちの怠慢さを反省すべきだし、いかに安保ただ乗りと怒ろうと、他国のことを議決するとは言語道断だ。
 だが、しかし、世界という国家の一構成員としてわが国を考えると、この振り上げたこぶしを打ちおろすかわりに、胸に手を当てて反省せねばならない。
 百二十年ほど前にやっと鎖国が解かれ、欧米人と本当に羽田で接しはじめたのがわずか四十五年前の終戦から。極東の島国、日本の冠たる特徴だ。日本人ほど外国語が下手で、外人と一緒に仕事をする経験が少ない国民はいない。永年ヨーロッパ暮らしをした僕の感慨だ。
 幸いにも、僕はモーツァルトやヴェルディを歌う商売。お陰様で、幼児よりしみついた日本的習慣、下手な言葉、違う肌の色にもかかわらず、彼らは僕を、自分たちと同じ人間として扱ってくれた。
 いま世界を制覇しているのは白人である。彼らは、差別とはいわないが、肌の色で白人以外を区別する。その区別の目を特に据えるのは、サミット出場唯一の有色人で、しかも膨大な量の製品だけで攻撃してくる、どんな人間なのか良くわからない日本に対してである。
 彼らとスキンシップを密にし、われわれも全く同じ心を持った人間であることを知らしめねばならない。それには、物ばかりで、心を輸出しない文化政策を改めるのが焦眉の課題である。
 アメリカの圧力に屈し、関税撤廃、内需拡大をやろうと、心が通じない限り日本たたきは永遠に続く。