22.フォークランド島紛争で知った戦争の愚

 終戦後四十五年もたった。戦争体験は風化していく。戦場で殺し合い、戦争の悲惨さを実体験した人はだんだん少なくなる。いかに見事な反戦論も、実体験にもとづかないと観念的で空しい。
 そう思っていたら、NHKが見事な体験的反戦番組を放映した。一九八二年四〜六月、英国のテレビカメラが戦場に同行、英国とアルゼンチンが、フォークランド島という小さな島の領有を争った戦争が、いかに愚かな行為であったかを見る者の心に刻みつけた。
 アルゼンチン軍が英領フォークランドに侵攻、サッカーに優勝したごとくわくアルゼンチン市民の興奮ぶり。そして女王陛下の領土が占領されている間は、一切話し合いに応じないというサッチャー首相の決断により、英国より機動部隊が出港する。アルゼンチン政府は国民の政治に対する不満を侵攻によりかわす。サッチャー政権も大英帝国のメンツを失っては国民に顔向けできない。
 フォークランドに初めて入り、英語しか通じないのに驚くアルゼンチン兵。何れ交渉で話がつくと船上で赤道祭りに興ずる英兵。ともに敵意はなく、殺し合いをする実感も全くない。
 両本国はメンツにこだわる。近代戦はボタンを押しての殺りくだ。やらねばやられる。偶然観光地で一緒になれば、記念撮影のシャッターを押し合うだろう若者たちは、やむを得ずボタンを押す。
 片足のフッ飛んだ英国兵。真っ黒な顔で投降してくるアルゼンチン兵。ころがる死体の数々。戦力に勝る英国が勝ち、ヒーローたちを迎えるロンドンのパレード。サッチャーさんの英雄賛辞のなんたる空しさ。
 ブエノスアイレスのレストランでは何事もなかったごとく市民は食事する。
 三千名の尊い命は何のために失われたか。かたわになった青年、息子を失った母親の嘆き。
「この番組は英国とアルゼンチン両国で放映され、大きな反響をよんだ」とテロップが出て特番は終わった。戦を繰り返してはならない。