30.権利の前に義務をはたせ

 ある高校の校長先生の話を聞く機会があった。あアメリカの高校では一昔前、休み時間になると、ぞろぞろ校舎外へ喫煙に出て行った。今では喫煙所が学内にある。託児所がある高校まである。もちろん、ごく一部の話である。
 自由の国の泣き所のような気がした。
 幸い日本にはこんな高校はないと聞きホッとしたが、しかし、次のような例も実際あったそうだ。
 万引きをした子の親が先生に、要するにとった物を返せばいいんだろうと答えた。悪いことをした生徒の母親を呼び話をしようとしたら、やおらバッグよりテープレコーダーを取り出し、妙なことを言ったら証拠として訴えると、先生が脅かされた。女子高生のカバンの中からラブホテルの回数券が出てきた。問い詰めると、ある男性と付き合っているという。両親に聞くとその事実を知っていて、結婚するかしないかは親の関知しないことだと先生に答えた。親をまず教育する必要があるようだ。
 お話では、以前の青少年非行は中高生と有職青年であったが、近年になって無職少年、すなわち学校にも所属せず、職も持たない少年たちの非行が全国的に増しつつあるという。職場や学校から落ちこぼれ、ブラブラと遊び暮らす少年たちがグループ化し、都市のターミナルや保護者不在の家にたむろして、問題行動をまま起こすそうである。
 幸いわが国は世界でもずば抜けて治安が良い。治安当局の努力もさることながら、わが血縁社会においては、ルールを守らなければ村八分にされる、といった通念が人種の混交の欧米社会より強いからではないかと思う。
 だが、国際化の風は強く、自由という万人の持つ権利万能のあらしはアメリカの方からふきつけてくる。
 自由でなければ人は生きていけない。しかし、学校、職場、家庭等、他人とともに生きるための義務を知らない者は、まず子として親として人間としての義務を、自由の権利を求める前に学ぶべきである。