35.即時報道の欠落にもの申す

 マルタ米ソ首脳会談、東欧激動のニュースに隠れがちだったが、ちょうど同じ時、フィリピンがおかしかった。反乱は一応収まったが、米軍出動を要請したし、国家非常事態宣言は出たし、氾濫兵処罰はまたもあいまい。アキノ政権の威信は失墜。クーデターは成功したかの感さえあった。
 ブッシュ大統領が専用機でマルタに向かった時を狙ったかのようなクーデター。政権発足以来六度目で、最大の容易ならざるものだったから、米軍基地問題を抱えながらも、背に腹はかえられず、アキノ大統領は米軍の出動を要請した。
 フィリピンが変わるか否か。同じアジアの日本にとり重大事件のキーポイントは、アメリカが出動に応じるか否か。
 つまりあの平成元年十二月一日、日本時間午後六時寸前、大統領専用機マルタ到着時のブッシュ大統領発言にあった。
 大阪のホテルにいた僕は、五時半過ぎから、TVチャンネルを片っ端から切り替えた。しかし日本の各局はのんびりと平常番組を流すのみ。米国ニュース専用局CNNだけが、マニラとマルタを結んで刻々と情勢を報道しながら、ブッシュ大統領到着を待っていた。
 首脳会談取材の日本報道陣が、わんさとマルタに行っていたのに、なぜリアルタイムに報道しなかったのか。出動に応じるか否かの確とした発言を、ブッシュ大統領はマルタ到着時にしなかったと、CNNは即時報道した。結局、米軍は出動し、アキノ政権は急場を救われた。しかし、あの時点では情勢は流動的でクーデターの成否はわからなかった。
 マルタ到着時に、日本報道陣のブッシュ大統領への取材は不可能だったのか。衛星回線が無かったのか。それらすべてが、あの時われわれ近隣国日本人にとり一番知りたいニュースである。少なくともCNNのコメントをすぐ流すことは出来たはずだ。
 故意か偶然か、ブッシュ到着を待つ間に、CNNは日本でのTVニュースはんらんぶりを皮肉まじりに流していた。ニュースは一秒でも早い方が勝ちさ、と言っているようだった。