36.お客は必ずしも神様ではない

 二年前の夏に、ミュージカル「はだかの王様」をひと月間歌った。
 四年続けて、夏休みの子供向けミュージカルにおつき合いをしてきてこまったのは、まだ鑑賞能力をまったく持っていない幼児を連れてき、泣いたり、大声でしゃべったり、客席の間を走り回ったりするのを、平気でほうっておく母親たちが多いことである。
 子供向けといっても、大人も喜ぶ作品ばかり。舞台に集中している他のお客がまゆをひそめているのに、場外に連れ出さず、平気で自分は舞台をみている母親の無神経さ!!幼児のみを対象にした出し物を除き、劇場にそんな幼い子を連れてくる親をヨーロッパではみたことがない。
 日本でリサイタル、オペラ、オラトリオを歌ったり聴いたりして感ずるのも、やはりヨーロッパに比べて客が洗練されていないことである。外来でありさえすれば良いものだと信じ込んでいる人たちが、一昔前に比べ減ったとはいえ、まだまだ主流である。
 自分は通だ、と言うことを誇示すべく、曲の余韻いまだ消えやらぬうちに、いち早く拍手をし、歌曲集の曲と曲との間や、交響曲の楽章の間に拍手する人がいると、シーッとたしなめ、皆が盛大に拍手をしているのに一人だけブー、としつこく叫び・・・。商業演劇では、開演中、平気で折り詰め弁当をひろげ、せんべいをかじり・・・。
 お隣が連れて行くからうちの子も連れて行こう。デートのためクラシックの音楽会を利用しよう、取引先から弁当付きの鑑賞券を貰ったから観に行こう、などなど、まだ日本ではヨーロッパに比べ、本当に自分から舞台を楽しみに来る客が少ない。
 悪い客のため、良いお客様が迷惑するのを舞台からみるのにしのびない。舞台芸術のますますの発展は、演ずるわれわれがうまくなることだが、そのためには客が良くなることが必須条件だ。
 お客は必ずしも神様ではない。