4.才能のある人を優遇せよ

 ノーベル賞受賞の利根川進教授が、研究者である科学者の終身雇用制度に反対しておられた。教授は「日経新聞」のインタビューの中で次のように述べておられる。
「日本は、才能ある人もない人も、平等に扱おうという社会だ。科学は個人の才能によって生み出されるものである。才能ある人を登用できるシステムになっていない限り、科学を発展させることはできない」
 この発言は、科学を音楽に置き換えても正しい。
 生まれた時、人は皆平等である。しかしその後、才能と努力によって人の価値は違ってくる(努力することができるのも大いなる才能である)。成人になったばかりの暴走族の一票と、政治学教授の一票が同じ価値しかないのは、国民の代表を選ぶ才能の有無を判断し、票の価値に差をつける判定方法がないからであって、両者の才能を同一視したのではない。だから腕をこまぬいて、もうけた土地成金と、額に汗をにじませ、才能を生かして蓄財した人に、同等に課税するのはおかしい。
 敗戦のおかげで民主主義が入って来、不平等の急激な是正の結果、誤った平等思想が、利根川教授がおっしゃるように、わが国ではびこったように思う。
 平等思想が最も排されのは音楽においてである。
 オーケストラ全員平等に弾く音を割り振る作曲家も、演奏解釈を合議で決める指揮者もいない。彼らは常に独断で判断し、ゆえに並外れた才能が要求される。
 そういう才能を育てる音楽学校においては、教師が終身雇用のもと、雑務に追われ、芸術の切磋琢磨をおろそかにし、しかも個人的コネで、若年にしてすでにその就職が決まるのが現状である。ヨーロッパでは、音楽家として、過去の実績を認められた人だけが教師になれる。従って、向こうでは教師に生徒が集まり、日本では学校のレッテルに集まる。
 人間は弱い。食う心配がないということは、心おきなく研鑽にいそしめることだが、往々にして、安住にあぐらをかいてしまう。
 傑作は貧困のうちに生まれることが多い。
 才能は優遇されるべきで、音楽のみならず、才能を伸ばすのに終身雇用制は邪魔だ。