42.音楽家を支援するのは道楽か

一過性ですぐ消えてしまう音楽は、資産として残る絵画、彫刻、建築などに常に後れをとってきた。
 ルネサンスだって、始まって百年以上にして、やっとオペラができた。今だって一枚でフル・オーケストラを何十年間も抱えていられる値段の絵を買った人がいるのに、オーケストラを買う人はない。
 クラシック音楽は採算に乗らず、昔は王侯貴族、今は企業がいろいろな形でスポンサーになり高級な娯楽を提供している。
 その音楽を、純粋に世のためと考え、支援する中小企業に、不正の疑いありという投書で、国税庁の査察が入り、交際費としで課税される(平成二年六月九日「日本経済新開」)。
年商百億の石材会社社長・吉田剛氏が出す金は年六千万円に満たない。援助を受けるのは、彼が人生の師の一人と私淑する指揮者、宇宿允人(うすき・まさと)氏。投書は、そんな中小企業が、指揮者の援助などできるだろうか、不正があるに違いない、
というものだ。
調査の結果、査察官は不正はないことを認めたが、社業と関係のない社長の道楽は交際費だと主張した。さらにかなりの負担を吉田さんは強いられる。
一部のスターは別として音楽家はみな貧しい。オーケストラのほとんどの楽員も、演奏のみではまともに生活できず、学校や家で教えている。だが、指揮者は生徒がほとんどいないから、教師のロは皆無。せいぜいアマチュア合唱団の指導をするような副業があるだけ。
僕は宇宿さんの名前を初めて知ったが、吉田さんの支援を受けているのだから、経済的に恵まれた音楽家ではないはず。でも彼は指揮料を受け取らないのだ。その人を支援し、その音楽を多くの人に提供するのがなぜ道楽で交際費なのか。
 芸術振興基金や、企業の芸術活動費への免税措置法案が考えられている時、何たる石頭。同業者のねたみか何か知らないが、くだらん投書をするやつがいる。
 それにしても宇宿さんの音楽を一度聴いてみたい。