47. 引っ越し公演より合同でオペラ創造を

 ベルリン・ドイツオペラが、ワーグナーの大作「指輪」全四作品のわが国における一挙初演を一昨年終えた。
ソリスト、合唱、オーケストラ、指揮、裏方、大道具等、これ以上はない総合芸術、オペラの丸ごと引っ越し公演である。
最低高一万二千円、四作通しで最高十三万円の券が売り切れた。旅費をかけて本場で聴くよりは安いという、金持ち日本のファン心理があって、このような引っ越し公演は昨年も、メトロポリタン、ミュンヘン国立歌劇場、スカラ座と、めじろ押しにやってきた。
こんな町は東京以外、世界中どこにも無い。
あらゆる舞台芸術は、本来住民のニーズに応じて、その町の劇場で創造されるべきものだ。本場の著名歌劇場のものなら切符は売れるという、既成のニーズにあぐらをかき、丸ごと引っ越して創造を放棄しているオペラの呼び元は、ミュージカルを見習うべきだ。
 いまだにブロードウェーやウェストエンドから高額の上演権で作品を買ってはいても、長年の制作努力で和製にたくさんのお客が来るようになり、上演権を払っても、なお巨額の制作費をかけられるようになってきた。「ビッグリバー」のごとく、トニー賞の黒人主演者に全せりふを日本語でしゃべらせるという試みまで出た。
 昔、NHKが招いたイタリアオペラ団の最初の公演に、多数の名のある日本のソリストたちが合唱に参加、舞台芸術を志す若者たちが仕出しにまじって本物を体得しょうとしていた。
 今やあの合同公演の意義を思い返すべきだ。
 本場のオペラ体験のある人材も多くなった今、足りないところを招請し、合同でつくれば、そして厳しい制作姿勢さえ崩さねばはるかに安い切符で、良いものを多くのお客に提供できるはず。
 丸ごとの引っ越しは、創造ノウハウの無い、田舎の金持ちのやること。まごまごしていると、四年後にできる第二国立劇場は、ミュージカル劇場になってしまう。