49. 音楽教師にも松竹梅がある

海老名泰葉さん、桐朋合格おめでとう。あなたのお父さんの三平師匠が、あなたが声楽を志していることを生前、僕に話しておられました。あなたのお母さんからもお聞きしました。
先進文明人が人類の大切な遺産として誇りにしてきたクラシック音楽に、芸能界ですでに仕事をしているあなたが、以前の芸大受験失敗にもめげず精進し、再挑戦したことに、特に僕は拍手を送ります。
日本では、音大受験生は皆、学校という入れ物に入ることを目指し、そのために幼時から課題とされた勉強をさせられます。ピアノだ、ソルフエージだと、遊びたいさかりの子供のおしりをたたいて、親たちは有名音校へ入れるためにレッスンに通わせ
す。
 そうしないと、芸大、桐朋などには絶対に入れないのが現状です。
 レッスン代は膨大。それほどまでしてやっと音大を出ても、演奏で生活できる本当のプロは、全日本で毎年何千人も卒業する人たちのうち、数年の下積みの後一人残るか二人残るか。残りは皆、先生、主婦、普通の職業人になってしまうのがクラシックのすそ野の狭いこの国の実情です。
 プロになれなくても仕方ない、本当の音楽とはこういうものだということを学ぼう、という姿勢も価値あると僕は思います。しかし音楽はマン・ツー・マンで学ぶものです。
 学校が有名だって、付く先生がダメなら、プロになることはおろか、本当の音楽を知ることもできません。
 ヨーロッパでは、だれに学んだかは尋ねられるが、どの音大で勉強したかは問題になりません。音楽だけでなく、この国にはびこる入れ物志向の風潮は教育の本質とかけ離れています。教師にも松竹梅とそれ以下があります。
 歌、とくに声は、悪い勉強を一年したら、元に戻すだけで三年くらいかかるもので
す。
 泰葉さん。あなたの先生が、あなたに合った良い教師であることを切に祈ります。