61.ガラコンサートをガラガラにするな

 ガラ・コンサートとは、ヨーロッパでは、特別豪華キャストを組んだコンサートのことである。
 オペラを世界のスターたちで新しく上演する初日を「ガラ・アーベント」(ガラの夜)と言い、お客はイブニング・ドレスにタキシード、入場料も高価。向こうでは初日が一番注目され、批評も初日に対して書かれる。そのスターたちが、オペラ初日に先立ち、顔見せ、お披露目の意味を込めてのコンサートが「ガラ」。たった一夜だけだから、売り出して同時に券はなくなる。
 このごろの日本ではやたらにガラと名乗るのが多い。そんな中で、多分一番ガラと名付けるにふさわしそうな内容の、オペラ・ガラコンサートいうのを聴きに、一万七千円払ってオーチャードホールに出掛けた。
 難役オテロ歌いのテナー、アトラントフが急病で出ず、六人の歌手のはずが五人に。約束が違う。
 さすがにメゾ・ソプラノのアグネス・パルツァは音楽性、声とともに立派にガラの名に恥じない。バリトンのベルント・ヴァイクルは、歌の旋律美が薄く評判倒れだった。
 初めて聴く名の、小錦のようなアレッサンドラ・マークというソプラノがノッシノッシと登場、東フィル全員相手に大ホールの屋根裏まで響く美声を披露したのは大収穫だったが、ヤタラに高い音だけは出すが、品性も芸術性もないテナーは声のアクロバット。それにしても「マノン・レスコー」 のアリアの最高音が絶叫になってしまった、もう一人のソプラノに、ブラボーを連呼するお客はまさに神様。指揮もあの程度なら、わが国にもっとうまいのがたくさんいる。
 外来芸術崇拝国だから、これをガラと呼ぶのに異論はない。だが、掘り出し物のマークおばちゃんがいなかったら一万七千円はチト高い。
 一昔前、遠慮してガラを使っていたころはたちまち売り切れたのに、今は空席が目立ち始めた。マネジャーさんたち。薄い内容にガラを連発すると、そのうちに客席がガラガラになりますよ。