64.問われる教育音楽協会の姿勢と著作権

「さいた、さいた、チューリップのはなが‥・」「やねよりたかい こいのぼり…」
 ともに有名な童謡だが、この、チューリップとこいのぼり、の作詞者は、八十三歳の近藤宮子さんという婦人であることが裁判で判断され、自分が作詞者であると主張してきた音楽家(故人)と、それを認めて著作権を登録した日本音楽著作権協会に対し、東京地裁は、両者に三百九十万円の損害賭償の支払いを命じた。まだ耳新しい報道である。
 これらの歌詞は、今をさる六十年の昔、昭和五年に日本教育音楽協会が全国に募集し、同七年に発行の「エホンシヤウカ(絵本唱歌)」に発表したが、作詞者は公表されず、著作者は同協会とされた。当時の文部省の方針であったそうだが、ひどい話である。
 ところが五十年が過ぎ、著作権がきれる昭和五十七年に、同協会は同協会の元会長、小出浩平氏が著作者であると発表、日本音楽著作権協会は、著作権者を同協会から小出氏に改めた。
 判決からみて、こんな安易な判断をしたことが、真におかしい。当時、つまり八年前「チューリップ」の詞と曲両方で、年間約四百万円もの使用料が同協会に入っていたそうである。
 近藤さんは、自分の詩がこれだけ歌われるのは、いい曲をつけてくれた故井上武士先生のおかげで、先生への恩返しの意味もあって裁判を起こした、と謙遜。金銭目当てではない。しかし、曲と両方でとはい、え、八年前に一曲で年四百万円も稼いだ詩の、五十九年間の著作権者として三百九十万円はいかにも少ない。
 これからさらに上告して争われるのかどうかは知らない。しかし、近藤さんに著作権が確定した暁には、モラルとしては教育音楽という社会に重い責任を持つ協会と、本来なら近藤さんの権利を守るべき音楽著作権協会が、当然近藤さんに帰するべき金額を算定し、全額返済すべきだ。それが教育の在り方を示し、著作権思想を普及する協会の姿勢だろう。
 八十三歳の一婦人の勝利は、胸のすく朗報であった。