74.新幹線内を静粛にさせよ

 東北新幹線のグリーン車は列車の中ほどの七号皐。僕は扉から二列目に座り、目を閉じて眠ろうとした。
 前夜は仕事でほとんど眠れず、今夜は地方でリサイタル。何とか眠らないと良い声は出ない。
 ところが、上野を出たとたんから自動扉はひっきりなしに開閉、修学旅行の高校生たちがゾロゾロ列をなして移動し始めた。よく見ると一度通過した生徒たちは皆また引き返してくる。扉が開いた時に外からカメラのシャッターを押しているものもいたので、振り返ったら野球解説者、元巨人軍の別所投手が乗っていた。
 トイレに行く乗客、ひっきりなしにやってくる売り子がそれに加わる。
 とても眠るどころではない。
 試しにしばらく腕時計の秒針と見比べてみた。なんと、扉が一分以上閉じていることはない。その状態が上野と盛岡の二時間四十六分の間続いた。
 別所さんは無理やり有名税を払わされ、さぞ迷惑していることだろうが、よりお気の毒なのはとばっちりを食った他の乗客、特に扉の前の第一列におられた四人の老夫妻たちであった。
 他の新幹線でもグリーン車は常に列車の中ほどに位置していて、有名人探しの子供や、やじ馬、形だけは扉の前で頭を下げるが、寝ている乗客がいても平気で大声をあげ、土産物を売る物売りたちの通過場となっている。JRさん、なぜグリーン車を最前部または最後部におかないのですか?
 衝突事故の時、今のグリーン車の位置が一番安全だからという説を聞いたことがあるが、人命にかかわることを料金の差で区別するのは不愉快である。
 乗車下車のためホームの一番便利な位置になるようにしてあるともいうが、少々の距離を余分に歩いても、僕は安静なグリーン車の方がはるかに良いと思う。
 グリーン車だけでなく全乗客へ今すぐにできるサービスの改善、それは頭など下げなくてもよいから、売り子たちをもうすこし静かにさせることである。