76.なまぬるいぞ!空港の身体検査

「ボディータッチしてもよろしいでしょうか」
 若い女性が形式的に尋ねる。良いも悪いもない。爆破やハイジャック流行のご時世、できる限り厳重にやってくれないことには、乗客は安心して飛行機に乗れない。彼女は勢いよく両腕、上半身、背中、オーバーのポケットなどをタッチしていくが、下半身になると何となく遠慮する。
 横には男性警備員がいるのだ。なぜ男性のボディータッチに男性係員が、女性のボディータッチには女性係員が、というルールにならないのであろう。
 昔、湯女という商売があり、女性が男性の体を洗った。ヨーロッパにも売春はあるが、そんな肉体奉仕は考えられなかった。
 日本では今でも女性のマッサージ師が男性の個室で仕事をする。
 宿屋でも肌着一つになった男性に、仲居の女性が浴衣や丹前をかけてくれる。
 病院で男性患者に浣腸をし、尿道にカテーテルを入れるのも看護婦さんである。
 男尊女卑。武士の妻は三歩あとから夫について歩く。そんな古来からの習慣がまだどこかにチラリチラリと見えるのが日本の社会だと思う。
 女性と靴下は戦後急激に強くなったし、妻が働きに出、夫が家事をする家庭、妻の側からの離婚などが増えても、大昔からの習慣はそう簡単に絶滅するものではないようだ。
 乗客の厳重なチェックは絶対に必要である。しかし今のボディータッチは、なんともなまぬるい。ハイジャックをするようなプロは、あの程度のタッチで発見されるようなところに凶器を隠すわけがない。最もタッチされにくい場所、股間深くに隠すのではないか。
 それを若い女性が男性に、また女性の股間に男性がタッチするわけには、いかに職務でもいかないだろう。
 欧米の空港でのチェックのように、電探器を外部から当てた方がはるかによい。
 あんなおざなりボディータッチはほとんど役に立たない。