77.本音か、建前か、両方の使い分けか

 横断歩道の信号は赤。車影全くない郊外の道路。人影もまばらである。ドイツ人は青になるまで辛抱強くジーッと待つ。イタリア人は構わずどんどん歩道を横断する。日本人はあたりを見回し、人が見ていないか、またはだれかが歩き始めると、その後について横断する。
 ぼくはイタリアに七年、ドイツに十年、日本に三十年以上住んだ。アルプスを隔てると、同じヨーロッパでもどうしてこんなに違うのかと思うほど、南のイタリアと北のドイツ人では気質が異なる。
 遠く離れたこの極東の日本人は、この二国民とはこれまた異なっている。くしくもその昔、同盟国だった三つの国。信号に対するその違いを、ぼくの独断的想像で書くことをお許し頂きたい。お断りしておくが、どれが良く、どれが悪いとは一切言うつもりはない……。
 横断歩道の信号は青である。制限スピード内で車は近づいてくる。
 ドイツ人は車を全く無視して悠然と歩道を渡って行く。
 イタリア人は様子をうかがいつつ慎重に歩き始める。車が停止線で止まる。ひょいと笑顔で手を振って大またに歩いていく。車は停止線を無視してくる。大げさにあきれ顔で手を広げ足を止める。
 日本人はイタリア人と同じく車の動きを見ながら歩き始める。車が停止線で止まる。当たり前だ、と前を向きドイツ人のように悠然と歩く。車は停止線で止まらずにやってくる。バカヤローとなじりやりすごす……。
 車も信号を守るべきだと、なにがなんでも信号に従うドイツ人。信号を無視する車もあると臨機応変のイタリア人。その中間の日本人。
 ドイツ人は人間の建前、イタリア人は本音。両方を使い分ける日本人。
 さてここで質問。この三つの国の人口に対する交通事故死者の割合はいかなる順になっているか、多い方から述べて下さい。
 答え@西ドイツ一三・八人Aイタリア一二・五人B日本一〇・五人(人口十万人当たり「交通安全白書」昭和62年版)。