80.不合理な盛り場のタクシー乗り場

「目と鼻の先のこの乗り場で長い行列が出来ているのに、駅前で客を降ろすと、行列を無視して、そこで次の客を乗せてしまうタクシーばかりでね」
「あんな車の入りにくい所にタクシー乗り場をつくるからですよ」
 延々三十分以上も寒空に行列をして、やっと来たタクシーに乗り込むなり、僕は運転手氏に不満をぶつけた。
 場所は渋谷駅前、東急文化会館の間に挟まれた中洲にある乗り場。間断なしに走っていく車の帯のなか、空車の札を出しながら、目の前を素通りしていくタクシーのほうが、われわれの並ぶ乗り場にカーブを切ってくる空車よりはるかに多い。午後六時頃のことだ。
「要領のいいお客さんは、あんな離れた乗り場なぞに並ばず、駅前で客を降ろすタクシーを狙いますよ」
「他の駅前で空車を止めようとしたら、乗り場はあっちだと運転手さんに注意されたよ」
「そりゃ場所によります。運転手も商売ですから、車の流れを横切ってまで入るより、そこで乗せてしまったほうがてっとり早いし、乗車拒否、だって言われる心配もありませんからね。駅の反対側にある乗り場だって同じことですよ。渋谷だけでなくて、おかしな所にある乗り場がいくつもあるんでっさ」
 苦情処理機関であるタクシー近代化センターにお伺いする。以前このコラムで、都郊外某駅構内タクシー乗り場の行列を尻目に素通りする空車のことを書いた。あれは駅側が乗り入れを許可しないためだった。
 しかし、渋谷駅前を素通りするほとんどの空車は、乗り入れ可能の都内営業タクシーである。長蛇の行列を尻目に素通りするのは、乗車拒否と同じ行為。なぜ指導しないのか。
 それより運転手氏が言っていたように、渋谷だけではなく他の駅前にも、いや駅前に限らず、人目につかず、空車も寄り付かない不合理タクシー乗り場がいくつもあるのはどういうわけか。正直に並ぶ客の身になって善処してほしい。