97.全国一斉の休日をずらせ

 われわれはなんと「一斉に」というのが好きな国民だろう。一社がスーパードライなるビールを当てると、われもわれもとドライ戦争。別の社が十円値下げすると他社はまたも追従、夜のニュースショーで、あるチャンネルが視聴率をあげると、他のチャンネルもドヤドヤと同じ時間帯にニュースショー。ビール会社やテレビ局のみが一斉にやっているのではない。
 飲み視る人間も、一斉にくいついてくる性向があるからそうなるのだ。
 前評判だけで一斉にミュージカル、映画、オペラの切符を買い求め、モードの傾向がわかると一斉にチャプリンのダブダブズボンみたいなのをはき、一斉に同じブランドのハンドバッグ、テレビゲーム・ソフトを買いに一斉に列をなし、一斉に花見にくり出し。……枚挙にいとまがない。
 狭い島国に日本語を話す人間だけが住み、一斉に桜を愛で、初ガツオを食べ、浴衣がけで花火を見、祭のみこしをかつぎ、とそを祝い、一斉に田植えをし、稲を刈る、農耕民族の昔からの習慣は簡単には変わらない。
 ジーパンで出社するサラリーマンは出世競争から落後、つっぱり中学生は卒業アルバムから消される。「スーパーウエット」「十円値上げのビール」は、しょせん出現しないのか。
 全国一斉の連休は一斉の交通渋滞。何をかくそう僕もその一斉にハンドルを握った一人のアマドライバー。高速道路網が五千キロに達したという今、西独に見習ってせめて夏休みは県別に学校の休暇をずらしてはどうだろう。
 一斉に週休二日制に移行し始め、一斉に休みも長くなっていく日本。今のうちに手を打っておかないと、増え続ける車で、あのノロノロ、イライラはますますひどくなる一方だ。
 都内の道路に都内保有の車を置くと、全部が埋まってしまうそうだ。一斉に買うからと車をつくり続けるが、一斉に休暇になると、そのうちこの狭い島国の道路全部が、車で一斉に埋まってしまうかも。