98.高級フランス・レストランにひと言

「ミシュランが来るという情報はそれとなく流れて来、来れば彼らだと大体わかりますから、特に良いものを出します。他のお客様には悪いのですが」
 本場フランスでも料理長(シェフ)を経験した、高級フランス・レストランの料理長が、ラジオでこんなことを言っていた。
 ミシュランはフランスのタイヤ会社。一企業が自国の料理だけを対象に、他国でも店の格付けをする。まさに、ヴェルサイユ宮殿に料理人を集めて腕を競わせ発展した、ルイ封建王朝の貴族料理の体質そのものである。
 だが、ミシュランに最高の三つ星をもらうと、特に外人からの予約で数週間前に満員になるという。それほど国際的に権威ある格付けだということだが、彼の言う通りなら、店の普段の実力を評価出来てはいない。
 フランス料理は確かに西洋料理の中で一番洗練されたものだろう。その貴族趣味をのぞき見する意味で、形骸化した、わかりもしないワイン試飲、ずらりとすのこのごとくテーブルの両脇に並ぶナイフとフォーク、麗々しくフランス語で書かれたメニューとワインリストを、セレモニーとして認めるのにやぶさかではない。
 だが、ここは日本である。
 われわれに一番便利な、はしを加え、メニューを日本語にし、ワインリストに、店が推薦する安いハウスワインをもっと加えてもいいのではないですか、高級フランス・レストラン殿。
 シェフも言っていたが、日本人は実に繊細な味覚を持っており、日本はフランスより四季と海の幸に恵まれているのだ。フランスにしかない高価なワイン、トリフューなど、一本ウン万円、一皿ウン千円のものを要求する、星の権威に金を払いにくる客でもうけて、僕ら庶民には、日本の旬の素材をふんだんに使って安くてうまいものを食わせてくれませんかね。
 これ一本で、これ一皿で、一家が何カ月も暮らせる国があるのを考えると、ごちそうに預かっても、どうも消化が悪くて困るのでありますな。