99.心のこもらぬロボット的サービス

 寒い時のことだ。あついココアでも飲んで温まろう、と喫茶店に入った。威勢のいい声で「いらっしやいませ」。
 サンダルをつっかけた若いアルバイトの女の子が、早速氷のいっぱいはいったグラスを卓上に置いた。丁度、真冬だった。
「熱いココアと、氷のはいっていない水をください」
 アルバイト君は面倒臭そうに、一言も発せず、氷が入らなくとも十分に冷たい水を、つっけんどんに持ってきた。
 デパートに入った。エレベーターガールが愛想よく迎える。日本のデパートは庶民を王様のように扱ってくれる。他にこんな国を僕は知らない。ちょっとこみいった品物の売り場をたずねた。エレベーター嬢、いっとき考えた後、うって変わってそっけなく答えた。
「案内係にお聞き下さい」
 とあるレストランで魚介類のフライに、ご飯を半分頼んだ。
「シーフードフライにハーフライスですね」
 若いウエーターさんがわざわざ英訳して反喝する。やがて、山盛りご飯にフライが運ばれてきた。
「君、半分でいいと言ったはずだけど」
「うちにハーフはありません。残してください」
 彼はケロッとした表情できびすを返して行ってしまった。もったいないじゃないか。
 どうせ残したご飯はごみ箱に行くのだ。それに戦中戦後の食うや食わずの時代に育った僕は、食べもしないメシを眺めつつ食べるのが苦痛なのである。
 それにしても氷といい、エレベーター嬢の愛想といい、ご飯といい、ただ決められた通りの、ロボットのごとき、無駄なサービスだ。
 だが、いくらサービスしても、アルバイト料も月給も変わらないのでは、彼らもやるわけはない。
 いっそ、先進諸国のようにチップ制にしては?