2004年6月14日
電通報より「風韻」

「マダマ バタフライ」百年     岡村喬生

 プッチーニ作曲の「マダマ バタフライ」は数あるオペラの中で、日本を世界に紹介したこと万人の外交官に勝る大傑作である。今年はその初演から百年目に当たる。
 ヨーロッパの劇場専属の時は否応なく僧侶・ぼんぞー役を歌わされた。ちょんまげ頭、経華蓮法妙無南と逆さまに彫られた鳥居を鷲づかみに。バタフライ役は土足で家に上がり、長崎港の彼方には富士山が見え!と、向こうで日本人の正視に耐える舞台を見たことはないが、これは演出の責任。実はプッチーニとその台本作者がまず間違っていた。大村が「おまーら」、猿田彦が「さんだるしこ」、仏壇に向かい神道の祝詞をあげ、バタフライは袂から仏像を出して夫に見せ、芸者は路上で歌い踊って金を乞い、「おくなま」という微笑の効用を説く賢人が居て―。当時は世界に出たばかりの日本。無理もない。こういう上演が百年間も続いてきた。向こうの劇場に何度も厳重抗議をしたが柳に風。もしも欧米の国のことなら直したに違いない!彼らにとっては、どうせ遠いアジアの異国の話なのだ。だがここわが国での上演でも、日本誤認は直っていないのだ!殆どが原語上演で、邦人歌手が無意識のまま原語で歌い、その訳、字幕の日本語は聴衆に看過されてきた。何たる怠慢!!
 昨年、(多分)世界で初めて改訂上演したが小さなNPO(特定非営利活動)法人主催だから、マスコミは殆ど無視。今年十月に再演するが、傑作の正しい姿を百年後、是非、是非、世界に発信したい!?

(おかむら・たかお=オペラ歌手)