もうちょっと詳しいプロフィール



 昭和6年、東京生まれ。
 札幌市立中学、東京開成高校を卒業。ペン1本で戦う新聞記者を目指し、早稲田大学第一政経学部新聞学科に入学した岡村は、所謂「優等生」であった。
部活は歴代首相を輩出する早稲田雄弁会へ入ろうと決めていた。しかし友人に乞われるままグリークラブへ。そこで運命の出会いが起こる。部室から響いて来る重厚な低音のハーモニー。岡村は思った。「・・・・・世の中にはこんなにすげぇものがあったのか!!!!!」カルチャーショックだった。
しかし高校までに歌った歌は校歌だけ。オタマジャクシのオの字も知らず、自分には出来ないと諦めかける。だが友人の熱心な誘いと同時に歌の魅力は抗いがたく、以来、勉学の傍ら合唱の道を邁進する。


 3年後、日本一のプロ合唱団"東京放送合唱団"のオーディションの話が舞い込む。「ダメでもともと」。ヘンデルのオンブラ・マイフを引っさげてオーディションに臨み、見事合格。プロ歌手への第一歩を踏み出した。
合唱団の一員として充実した日々を送る岡村。折りしもNHKがイタリア歌劇団を招聘、合唱団の一員として舞台に立つことになり、更に端役ながらもソリストとしてデル・モナコと同じ舞台に立つと言うラッキーチャンスに恵まれる。
デル・モナコとの練習初日。響き渡る彼の歌声。その素晴らしさに度肝を抜かれた。再び起こった運命を変える出来事だった。今まで合唱一辺倒だった自分に、図らずともデル・モナコはソリストとしての道を指し示してくれ たのだ。
「二枚の声帯で人をここまで感動させる歌手に自分もなりたい!!!!!」岡村は強く思った。
しかし音大で基礎を学んでいるわけでもない自分の歌。我流の歌唱には限界がある。28歳で岡村は本場イタリアへの留学を決意する。
和子夫人と、1年だけとの約束で出発した海外留学は、その後8年の長期に渡ることとなる。

 ダメもと精神とクソ度胸、ラッキーと実力が重なり合って見事イタリア留学の権利を勝ち取った岡村は、ローマのサンタ・チェチリア音楽院声楽科へ入学する。
めきめきと頭角を現し、1960年にはイタリア・ヴィオッティ国際音楽コンクール声楽部門金賞受賞、そしてフランス・トゥールーズ国際声楽コンクール優勝。トゥールーズでは優勝賞金1,000ドルを得、留学期間の延長と新しいスクーターを手に入れた。

 ある日、新品のスクーターでレッスンへの道を急いでいた岡村はローマ市内で交通事故に遭う。バスと接触し、片足を踏み潰されてしまったのだ。近くを通りかかったアベックが岡村を車に乗せ、クラクションを鳴らしハンカチを振りながら猛スピードで病院へ運んでくれた。
医者は2人いた。老医師は片足を切断しなければ命が危ういと言う。岡村は叫ぶ。「僕は歌手です!足を切らないでください!」
その必死の様子を見た若い医師が、何とか足を切らずに済むようにと老医師を説得してくれる声が聞こえた。

 厳しいリハビリを続けて見事復活した岡村は、サンタ・チェチリア音楽院声楽科を満点のDIECI(10点)で卒業、1966年にオーストリア・リンツ市立歌劇場の専属となる。それに伴いウィーン・国立音楽アカデミー・リード・オラトリオ科に入学し、その後は次々とヨーロッパの桧舞台に立つことになる。
1969年にドイツ・キール歌劇場、1971年にはドイツ・ケルン歌劇場とそれぞれ第一バス歌手として契約。ミュンヘン、ローマ、ウィーン、テルアヴィヴなど、ヨーロッパ各地でオペラ、オラトリオ、コンサートに出演する。
しかしケルンで出会った恩人であり友人である指揮者、
イシュトヴァン・ケルテスの死によって、岡村は少しずつ、日本への帰国を考えるようになった。

 現在、我が国バス歌手の第一人者としての活動の傍ら、多才ぶりを発揮。エッセイ・小説の執筆、ミュージカルへの出演、俳優としての活動、講演会の開催などなどなど。笑っていいとものテレホンショッキングにも出演した(桜井よしこさん→岡村喬生→ボニージャックス)。
様々な会の代表や名誉会員を務める岡村だが、変わったところでは
日本ソムリエ協会よりSommelier D’Honneur(ソムリエ・ドヌール=名誉ソムリエ=)の称号を授与している。また、2001年よりイシュトヴァン・ケルテス協会の会長も兼任する。
歌手としては「歌の旅」と称するトークを混えた独唱会を行い、ライフワーク・シューベルトの歌曲集「冬の旅」演奏会を毎年行う。また演出家として「
NPO・みんなのオペラ」を立ち上げ、上質廉価なオペラを地域格差なく広める為の活動を行っている。

 今年で70歳。「80歳になったらね、もっといい声で歌えると思っているんです。」と、岡村は笑う。
「だって、音楽は人間の感情を歌っているんだもの。僕らは年を取ることで、心が豊かになっていくでしょう。ワインがまろやかに熟成されていくようにね。」
 10年後、この上質なワインはどんな美酒に酔わせてくれるのだろうか。今尚進化し続ける姿は、目が離せない。

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