ブランチは午前11時頃。
「プッチーニの『蝶々夫人』は日本が正しく描かれていない。今、それを日本人の眼で新たに演出し、日本語で歌う台本を翻案中です」と岡村喬生氏。上演は来夏の予定だ。
和子夫人と朝の食卓で。


「若い頃は、70の声を聞いたらもう歌っていないだろうと思っていました。ところが低音のせいか、声は今が最高でして・・・・・・」
 と苦笑するのは、声楽家の岡村喬生氏である。舞台で、老けたなと感じたことは無い。もっともっと上手になりたい。その繰り返しだ。歌い終わって満足するのは、数年に1曲あるかないかだという。
「僕は80歳になったら、もっといい声で歌えると思っているんです。年齢を重ねるほど心が豊かになっていくでしょう。音楽は人間の感情や心を歌うわけだから・・・・・・」
 そういう岡村氏だが、最初から声楽家の道を志したわけではない。早稲田大学在学中に出会った「グリー・クラブ」が人生を変えた。たちまち歌の虜となり、その道に。28歳でイタリア政府給費生として留学。ローマ、パリ、ウィーンなど、数々の世界の桧舞台を踏み、日本を代表するオペラ歌手の名声を得る。20年間の滞欧生活に終止符を打ち、帰国したのは昭和54年。
 現在の活躍は周知の通り。声楽家活動はもちろん、映画やテレビでは俳優としてもお馴染みだ。
 その旺盛なエネルギーを支えるのは、週3回の運動と食事である。ヨーロッパでは、オペラは夜8時に始まり、終演は11時か12時。その後、劇場の食堂で夕食を食べ終えると深夜となる。
「こういう生活では、朝食は昼兼用のブランチで1日2食にならざるを得ません。これは日本に帰ってからも変わらぬ習慣です」
 舞台のある日は、本番4時間前にステーキや野菜サラダ、さらにパスタなどのボリュームのあるブランチを摂るが、普段はパスタや素麺、茶漬けなどと軽めだ。とりわけよく登場するのが、ローマ留学時代に覚えた一品、カルボナーラ。自ら厨房に立つこともある。
 今、力を注いでいるのが、日本語で上演するオペラである。
「オペラを神棚から下ろして出前する、というのが僕の目指すところ。楽しくて解りやすいオペラをもっと広めたいなあ」
 その思いはますます強い。

 

●岡村喬生氏の定番・朝めし自慢
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お手製カルボナーラとサラダ、炭酸水。
カルボナーラの材料は卵黄、パルメザンチーズ、ベーコン、生クリーム、白ワイン、大蒜。
サラダは烏賊の燻製とセロリの葉と茎を刻み、サラダ油で混ぜ合わせたもの。
カルボナーラは岡村氏の得意料理。留学中、馴染みのローマのレストランでよく注文した味で、いつの間にか作り方を覚えたという。

岡村家では、イタリアの味が度々に食卓にのぼる。これもそのひとつで、パルマ産生ハムを無花果やメロンなどにのせて食べると美味。

15年前から週3回、駒沢オリンピック公演総合運動場で自転車こぎなどを焼く1時間半。
自宅からの往復40分も歩いて通う。
代表作CDに「シューベルト冬の旅」(クラウンレコード)
など、著書に「歌うオタマジャクシ世界奮泳記」
(東京新聞出版局)など。

 

●わが家の食卓・必需品
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「ガルバーニ ゴルゴンゾーラ」100g当たり540円。取り寄せ可。チェスコ直営店「ブリア・サヴァラン」東京都江東区青海1丁目パレットタウン内 TEL.03-3599-2270

 滞欧生活が長かった岡村氏のブランチには、チーズもよく登場する。お気に入りは、イタリアのゴルゴンゾーラチーズ。世界三大ブルーチーズのひとつで、青黴による刺激的な香りと濃厚な味わいが特徴だ。
 世界各国から4004種類以上のチーズを輸入販売している「チェスコ」は、日本最大手の輸入チーズ専門商社。品質や熟成を一品一品チェックし、温度・湿度管理を徹底している。常に最高品質のチーズが入手できるのが、チーズ党にはありがたい。


「サライ」(小学館発行)2002年12月19日号  取材/井田ゆき子 文/出井邦子 撮影/馬場隆

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